2016-01-23

祝 本谷有希子

お笑い芸人が受賞するという鮮烈な回になった去年の芥川賞、今年はどうなるのかと思っていたところ本谷有希子さんが受賞というニュースを見て密かにガッツポーズを決めました。受賞作「異類婚姻譚」はまだ読んでいないのですが、本谷さん、地味にずっと好きです。

なにかあるたびに手にとってしまう「生きているだけで、愛。」富嶽三十六景を “虚空に爪を突き立てるような荒々しい波が富士山を背景にザッパーン!” と表現した文章を読んでノックアウトされたのを覚えています。“女子高生の頃、なんとなく学校生活がかったるいといういう理由で体中に生えているあらゆる毛を剃ってみたことがある。” という書き出しも、初っ端からかっ飛ばしてる感はありますが。
主人公は女、二十五歳、メンヘル。過眠で鬱真っ最中。どんな小さなことでもめんどくさくしてしまう。「死にたいかも」と送った恋人の返信が「大丈夫たよ」、“たよ” という打ち間違いに “人の生死に関わるメールなんだから読み返すくらいしろよ” と激しい怒りを覚える。ボーリングの玉ほどの重さを転がしているのに卓球の玉がポコンと返ってきたような虚しさ。しかも凹んでるやつ。
誤字脱字も勿論、受け取った側が瞬時にコイツ本気で死にたくていってるわけじゃないなと判別していることにも腹が立つんですね。わかります。そして本気で死にたいと思っていないくせにかまってほしくて言ってしまった自分にも嫌気がさすんですね、わかります、わかります。わかってる場合じゃないってことも一応わかってます。

痛い女子を書かせたら本谷さんの右に出るひとはいないのではと言い切れてしまうほど、とにかく痛いです。めんどくさい人ばかり出てくるなと思いながらもなぜか憎めない、そしてその痛さに「あーわかるー」と共感してしまうと、もう本谷ファミリーです。痛い女子の話を読んで何になるのと言われると閉口してしまうのですが、多分自分の中に潜んでいるちっちゃい分身が剥き出しで世間に立ち向かっているのを客観的に見ているような感覚なのかな。客観視できると冷静になれる気がする。あと本谷さんの勢いの良さとそれに負けないくらいの文章力のセンスがたまらないです。威勢のいい痛さだけだったら胸焼けして仕方ないはず。



今、本棚を眺めていたら「ほんたにちゃん」もいました。こっちは笑っちゃうくらい痛いです。ピンクの本の帯にも「痛いよー。痛いよー。」と書いてあります。将来の夢→綾波レイ。「これって自伝小説?オロカわいい!!!!」執筆当時、19歳。本谷有希子の原点、幻の処女小説をセルフリメイク!!!!!という謎の本。それでも数回の本棚整理、断捨離ブームを乗り越えてもまだ残っていた「ほんたにちゃん」、置いておきたい何かがきっといつもあるんだな。昔は “もうどうしようもなくなにもかも嫌になったらとりあえず本屋で本谷有希子を探せ” 状態でした。
そして「痛々しさで死んだ人間なんていないよ。」という一文、理由はよくわからないけれど勇気が出ます。更に本に登場する超絶に痛い子が本の中で何をして何を言っていたのか、久々に手にとった今、全く覚えていないことにも救われます。読んだ当初は破壊力すごいーと驚いていたくせに。

結局は人がどうしようと何を言おうが、どんどん上書きされて薄らいでいくものなんですよね、記憶なんてものは。だから過剰に気にしなくていいんです、他人を攻撃したり、傷つけることは例外だけれど。人の目を気にしすぎたり考えすぎる思考回路の人は、本谷さんの本を読むと楽になる場合があると思うので試してみて下さい。

久々にメディアでお見かけした本谷さんはなんだか印象が以前と変わっていました。ご結婚されていつのまにか出産も経験されて、パッと見でわかるくらいまろやかになっていた。四度目の正直で受賞とニュースに出ていましたが、そこまで書き続けて本谷ワールドを継続していることがすごい。芥川賞の初めて候補になったのが「生きているだけで、愛。」の2006年、本谷さんの底力を思い知らされるような受賞だと思います。



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